equipments: December 2010 Archives

先日のTime Domainとエノキダケマイク話しの続編です。
現在進行形のウラニーノのレコーディング現場で日々実践し、新たな発見を日々感じています。

趣味の新しい試みのひとつは、僕の愛用しているギターアンプ Fender Deluxe(1958年)に Eclipse のTD(Time Domain)スピーカーを接続し鳴らしてみた。
想像通りの結果。これは申し訳無いけれど言葉で説明不可能な領域なので、興味ありましたらお試しを。スピーカー飛ばしても責任は持ちませんが。
なかなかに「目から鱗・・・」の音が飛び出ます。そしてエレクトリック・ギターの繊細さを改めて知ることが出来ます。自分の演奏の繊細さももちろん要求されます。

-------------------------------
さて、話しを戻し。
エノキダケマイク(Time Domainマイクとも言われている様です)をボーカル・レコーディングに使用してみた。
ここ数年お気に入りの基本セッティングをし(Blue Kiwi + Blue Robbie マイクアンプからUREI1176を経由)そのマイクの外側にエノキダケを2本。(間隔10cm程)
Blueのマイクからはもちろん聞き慣れた音。でエノキは・・・と切り替えると既に勝負あり!
単純に声色の好き嫌いで言えばBlueにも勝算はあるのだけど、歌の意味合いが全く変わる。
いくらレベル変動があろうが、コンプを通って聴きやすくされたBlueよりずっと言葉の意味が伝わる。歌い手のニュアンスの全てがそのまま伝わる印象。こんな経験はしたことが無い。
もちろんボーカルの山岸君はとても歌いやすかったとのこと。ピッチも普段よりずっと楽に取れている様に感じる。

細かいことを書き出せばキリが無い経験なのだけど、そんな録音。

そして、このマイクで録った音に何かエフェクトを付加しようとした時に愕然とした。
デジタルリバーブ、ディレイ等ちょっと足しただけで明らかな違和感を感じる。つまり『人工的なモノ』を加えてしまった感覚。わかりやすく言えばオーガニックな食材に人工的なモノを加味してしまった感覚。元の音素材と付加した人工的な音が明らかに乖離する。
こんな経験も初めてだった。

今までのレコーディング技術を否定するつもりなど無い。けれど新たな道が開かれてしまった以上、もう後戻りする必要など無いなと思う。とてもオーガニックな方法で。

先日京都での早川義夫さんとのライブ翌日、富士通テン小脇さんの計らいで Time Domain社の由井啓之社長にお会いしてきた。

Time Domain(以後TD)理論によるスピーカーに出会ったのはもう7~8年前になるのか?エンジニアのMichael Zimmerling(マイケル・ツィマリング)の紹介で富士通テンのエクリプス・スピーカーの音をdog house studioで試聴したのが最初。聴くなり「キョトン!?」としてしまった。つまり、今までに触れたことの無い質感の音だった。一聴してこのスピーカーが今までのそれとは一線を画すモノだと気付いた。
以後エクリプスの各機種、Yoshii 9、Yoshii miniを経験し、今も仕事上も日常でも無くてはならないスピーカーとなった。

僕自身TD理論については実はいまだに”何となく”の範囲でしか理解できていないと思う。でもそれが”明らかに正しい”であろうことは経験上から実感している。

さてそんな経緯で、ずっと尊敬していた由井さんにお会いできたのは何とも嬉しい限り。
初対面にも係わらず気さくに色々な話しをして下さった。実は話しと言うよりは僕にとっては”講義”の様にも感じられるありがたく、興味満載のお話し。
そんな中でネット上で何となく気にはなっていたマイクを見せていただいた。
それは想像とは全く違う小さな小さな貧相なマイク。直径にして5~6ミリ。そのマイクカプセルに細い電線を直付けと言う。その場ではそのマイクの音、あるいは収録した音源を聴くことはできなかったが、そのマイクの『武勇伝』はたくさんうかがえた。ステレオで50円のマイク!

京都から戻り早速マイクの情報を調べた。伺った話、形態などから”これかな?”と思った候補がいくつか上がった。小さな小さなエレクトレット・コンデンサー・マイク。仕様の周波数特性を見ると通常僕らがレコーディングで使っているマイクとは大きく違い、限りなくフラット。ピンと来た。これかな?

早速秋葉原(”あきばはら”が正しい(古い)読み方ですよ!)へ弟子であり良き仕事仲間でもあるサウンド・エンジニア中崎女史を連れ出す。10年以上ぶりの秋葉原のパーツショップ、いくつもの店を探しまわりやっとお目当ての品を秋月電子で発見。
その足でウラニーノのリハーサルスタジオへ直行。その場で中崎さんがマイク製作をし、リハーサルの合間に山岸君のギターを借りてその日の”おやすみ音楽”をKorg MR-2に試し録り。(後にそのサウンドが話題になりtwaud.io の世界ランキングで一位にまで入ってしまった!)

ヘッドプォンで聴きながら演奏を始めるなり今までのどんなレコーディング経験とも異質な感覚を覚えた。それはエクリプスのスピーカーを初めて聴いた時以上の衝撃だった。完璧に自分が演奏しているギターの音が”そこ”に存在していた。思ったことはただひとつ「由井さん、おそるべし!」

その場でエンジニア中崎がそのマイクを「エノキダケ」と口にし、あっと言う間に”エノキダケマイク”の名称が定着してしまった。

数日後ウラニーノのレコーディングで河口湖スタジオに向かう。
「おやすみ音楽」制作の為、レコーディング終了後スタジオのアップライトピアノをエノキダケマイクで録ってみる。素晴らしい音だ。やはり今までには経験したことのないピアノの音・音場。
その音を聴いた中崎が翌日「これで(エノキダケマイク)録りましょう」と言い出し、初めてこのマイクでのスタジオ本番録音に挑戦することとなる。

話しが長くなるので省略するが、そのマイクの音は今までのどんなスタジオ録音の経験とも全く次元の違う音だった。アコースティックギターも歌も録った。ピアノも録った。ベースもエレキギターも録った。ドラムも録った。どれも、どの音も自然で何の補正(EQやコンプや)も必要とせず、リバーブやらのエフェクトも必要としない音。ただ録った音達を”好きなように”バランスを取ればいい音。
衝撃だった。決して大袈裟では無く”レコーディングの歴史が変わった!”と実感した瞬間だった。

それは僕らプロデューサーやエンジニアだけではなくミュージシャン(ウラニーノメンバー)にとっても衝撃的な事件だった。
僕自身の演奏上での体験も衝撃的だった。そのマイクでのモニターを聴きオケにあわせピアノを弾く。
例えば、Cのコードをバン!とフォルテシモで弾く。でもその時にド・ミ・ソのミの音を強くしようと思うと、クリアにそれを感じられる。左手のC音の親指小指のオクターブユニゾン、親指を強く弾くとそれがわかる。そんなことは過去のレコーディングではありえないことだ。もちろんピアノ単体ならそれはできる、感じられる。がロックバンドの分厚いオケの中でのダビング時にそんな繊細なコントロールはあり得ないことだ。

おそらくこのマイクは聴いている人以上に演奏家に与える心理的効果の方が遙かに大きい様に思える。が故に理解されにくい、あるいは誤解を生みやすいかも知れない。
ありとあらゆる贅沢なマイク、HA、コンプやEQを使い。そんな現場で40年近くやって来たからこそ断言できること。
「全ての先入観を捨てて試してみること」「心を開いて音を感じること」「音の”何”を必要としているのか、今一度考え感じてみること」

この革命は特化された人のためでは無く、全ての人の為だと確信する。

最後に「由井さん、ありがとうございました。心の耳がやっと開かれました!」

About this Archive

This page is a archive of entries in the equipments category from December 2010.

equipments: October 2009 is the previous archive.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Powered by Movable Type 4.01