『たましいの場所』

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早川義夫さんの著作『たましいの場所』が文庫本になったらしく、早川さんからその文庫本(ちくま文庫)が今朝届いた。
元の本も頂いて本文は何度か読んでいたので、文庫本の追加部分だけをパラパラと目を通した。相変わらず上手な文章だなぁと思いながら。

ページを捲りながらふと昔の事を思いだした。
他でも何度か触れたことのある話なのだが、それは早川さんとの初めてのレコーディングの時の記憶。
スタジオはどこだったのかもはや定かでは無いが、もう17年ほど前。アルバム『ひまわりの花』のレコーディングの初っ端「身体と歌だけの関係」と言う曲をレコーディングした時のことだ。
演奏者は早川義夫(Vo, Piano)そうる透(Drms)そして僕(Bass)の3人での一発録り。
2~3回練習がてら合わせ録りをして、そろそろ本番になるかな…と演奏を始め、曲の2コーラス目辺りで演奏しながら突然涙が流れてきた。何なのだろう?と思った。もちろんそんな経験は数十年やっている中でもありえなかった。その後もありえない。
泣けてくる様な曲でも歌詞でも無いその曲。早川義夫の声とその歌だけが何か得体の知れない僕の中のある一点を突き刺した様だった。
とめどなく流れる涙を厭わず演奏し続けた。演奏しながら「何でこんなに自由に演奏できるのだろう?」と思った。譜面に表す様なリズムもコードも何もかも超越して果てしなく自由に演奏することが出来た。

僕にとってはとてつもなく長い演奏時間が終わり「聴いてみましょう!」とコントロールルームへ戻った。するとコントロールルームに居た人々、ディレクターもマネージャーもアシスタントエンジニアやたまたまの来客含め全員がその目に涙を浮かべていた。
そんなシチュエーションにはその前も後も出会ったことは無い。レコーディングの現場でなど決してありえない状況だった。
もちろんそのテイクはオーケーテイクとなった。

涙は流れなかったがある種似た様なレコーディング体験をその10年近く前に一度だけしたことがあった。
初めて自分で飼った犬が死んだある日、夜からレコーディングの予定が入っていた。日中ずっと苦しみ続ける犬を抱きしめながら夜の仕事が気になっていた。そんな気持ちとは別に苦しむ犬に「もういいんだよ、そんなに頑張らなくて」みたいな言葉を掛けた。ありがちな話しだがその直後犬は静かに息を引き取った。そして僕は夜のセッションに間に合った。

その日はNHKのスタジオでのセッション。どんな曲だったかは覚えていないが、ロングトーンの前衛的なギターを弾いた。アンプ(小出力)はブースに入れヘッドフォンをして弾いているのに、フィードバック(サスティン)を自在にコントロールできた。(*通常フィードバックは大きな音量を出してそれをピックアップが再度拾うことで起きます)
その感覚は、音がギターのピックアップでは無く、ヘッドフォンから身体を通って指を伝いギターにフィードバックされているような感覚だった。このまま永遠に音を伸ばしていることが出来ると思った。
同時に演奏することが自由で解放される行為だった。とてつもなく悲しい夜に心はとてつもなく解放されていた。

そんな演奏体験とは、その瞬間における「たましいの場所」を見いだす事ができていた事なのかも知れないな、と本のページを捲りながら思った。

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This page contains a single entry by masahide sakuma published on December 29, 2012 4:47 AM.

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